大阪大学人間科学研究科社会環境学講座

e防災マップコンテスト

第5回

優秀賞(新規視点賞)

グループ紹介

グループ名 大阪大学人間科学研究科 社会環境学講座
市町村 大阪府豊中市
想定災害 地震 、津波 、風水害
グループ活動 非防災組織
防災コンテスト参加 新規

マップ名 :「豊中国際救援マップ (Toyonaka Disaster Prevention Map)」

豊中国際救援マップ (Toyonaka Disaster Prevention Map)

受賞マップ作品

グループの概要

 稲場研究室(大阪大学人間科学研究科社会環境学講座現代社会学研究室)では「宗教と防災」「ソーシャルキャピタル」を軸に研究を行っている。本プロジェクト始動にあたって、二つの防災マップを作ることに決定した。ひとつは、大学が置かれている豊中市を対象とした「とよなか国際救援マップ」であり、ひとつは宮城県気仙沼市を対象とした「“気仙沼”震災伝承マップ」である。それぞれのプロジェクトを、メンバー一丸となって、同時並行で進めてきた。
 豊中市の防災マップでは、アクションリサーチとしてさまざまな団体に働きかけ、さまざまなコラボレーションの機会を創出するとともに、「役に立つ」マップをテーマに据えて活動を行った。

作品の概要

 私たちは、豊中国際救援マップと題して、外国人のための防災マップを作成した。今回防災マップを作成するにあたり、「役に立つ」ことを主軸に据え、とりわけ行政や地域の活動としても未着手であった「外国人」に活用していただけるようなマップを目指した。現在豊中市では、平成23年の時点で4000人強の外国人が登録されているが、未登録の方や豊中市で就労している方、観光客を含めるとその数の推定は難しい。また、インタビュー調査から、「災害時にどうしていいか分からない」「災害時にどこに逃げたらよいのか知らない」といった外国人の不安も明らかとなり、このプロジェクトを通じてそうしたニーズに少しでも応えられるよう尽力した。
 マップについては、豊中市危機管理室と連携し、現在ある避難所のデータを全面的に電子化した。主な避難施設については外観が分かるようフィールドワークに出かけて写真を撮り、位置情報と合わせてローマ字・英語表記を付した。マップ作成の活動と合わせて、私たちの活動を知ってもらえるよう、地域に根ざして活動する団体とコミュニケーションを取り、周知に努めた。また、留学生を招いて避難所運営ゲーム「HUG」や「クロスロード」を用いた防災勉強会を実施した。これらの活動は、今後地域の団体や危機管理室と連携を深めていく大きな契機になったといえるだろう。

作品の特徴

 本作品は、これまでに類を見ない「外国人に向けた防災マップ」である。携帯電話やパソコンからアクセスでき、自分が行くべき避難所がどこか、近くにどのような避難所があるかを確認できる仕様となっている。言語的な問題がつきまとう中で、避難所の概観を示す写真はその助けになるだろう。さらに、母国語を話す機会がある場所、外国人が実際に地域に溶け込み、またその試みを支援する場所についてもマップ上に掲載した。たとえば外国人が働く・外国人が集まるエスニック料理店、「公益財団法人とよなか国際交流協会」、「国際交流の会とよなか」、「法雲寺」が挙げられるが、このマップはフィールドワークを通じて多くの方に出会い、御協力いただいた成果となっている。
 「役に立つマップ」というテーマの下、外国人のみならず地域の方も使っていただけるよう心がけた。エスニック料理店を示すアイコンは、マップ上にはためく国旗として興味をそそるだろう。各種ハザードマップと位置情報を照合することで、自分が今いる位置の特性や災害時に逃げるべき避難所などの情報が多面的に捉えられるようになっている。
 そしてウェブ上で見られるという特性を活かし、他の防災マップや防災に関するサイトへのリンクも説明欄に付し、防災について包括的にアプローチできるマップとなっている。

自由欄

 本マップは、中国やエジプトといった様々な国の留学生の支えがなければ完成しなかった。「クロスロード」を用いた勉強会は中国語で実施され、日本に住むうえで避けては通れない災害について、真摯に学ぶ姿が印象的であった。フィールドワークでも進んでエスニック料理店に出向いていき、母国語でオーナーと交渉する場面が多く見られた。留学生の活躍は、翻って豊中市に住む外国人もプロジェクトに巻き込める可能性を示唆している。この点は今後の楽しみであり、課題であるといえよう。
 また、外国人のニーズを知りそれに応えるために、アンケート調査や聞き取り調査を行い、幾度もフィールドワークやインタビューを行った結果が本マップに結実している。社会調査のノウハウを駆使し、私たちの日頃の勉強の成果がいかんなく発揮されていると自負している。しかし、一方で地域の方々とより連携していく余地もあり、今後も行政や自治体が主導する街歩きなどと積極的にコラボレーションしていきたい。
そして何よりも、「防災」を通じた地域コミュニティの創生について考える一つのきっかけになった点、あるいは防災マップそれだけでなく、それを作成する過程において、多様なアクターが結びついた点は、本プロジェクトの社会的意義として強調できるだろう。このマップがなければ見えてこなかった地域の防災課題があり、生まれなかった出会いがある。私たちはこれからも地域の方と共に、私たちの「防災」について考え続けなければならない。

講評

評価できる点

  • 防災情報が届きにくい外国人を災害時要援護者として捉え、地域の災害危険箇所や防災資源に関する情報の届きやすさが工夫(国旗アイコン、英語表記、写真など)された作品である。
  • 外国人の交流拠点(外国人が運営しているカフェやレストランなど)への訪問インタビューを通じて課題を洗い出すなど、十分なフィールドワークをもとにした現場感覚が伝わる作品である。
  • 在住している外国人とのコミュニティ形成を意識し、行政を巻き込んだ定期的な楽しい交流を通じて、防災情報共有のあるべき姿を検討している。

課題、今後に期待する点

  • ハザードマップなどを利用して災害危険性を評価し安全な避難経路を示すなど、災害時の行動につながりやすい情報提供についても検討してほしい。
  • 地域住民をはじめ、学校や教会などの多様なコミュニティが参加した意見交換や避難訓練を行うなど、災害時の地域協力が得られる防災体制づくりを期待したい。
  • 東京オリンピックのような今後の国際イベントに向け、このような取り組みの発展と展開を期待したい。