大阪大学 現代社会学

e防災マップコンテスト

第5回

優秀賞 (記録活用賞)

グループ紹介

グループ名 大阪大学 現代社会学
市町村 大阪府豊中市
想定災害 地震、津波
グループ活動 非防災組織
防災コンテスト参加 新規

マップ名 :「“気仙沼”震災伝承マップ」

受賞マップ作品

グループの概要

 稲場研究室(大阪大学人間科学研究科社会環境学講座現代社会学研究室)では「宗教と防災」「ソーシャルキャピタル」を軸に研究を行っている。本プロジェクト始動にあたって、二つの防災マップを作ることに決定した。ひとつは、大学が置かれている豊中市を対象とした「とよなか国際救援マップ」であり、ひとつは宮城県気仙沼市を対象とした「“気仙沼”震災伝承マップ」である。それぞれのプロジェクトを、メンバー一丸となって、同時並行で進めてきた。
 気仙沼市のマップでは、現地での聞き取り調査を通して、東日本大震災に関わる語り、写真を収集した。地域の方々との協働作業と、「震災の記憶を記録する」マップをテーマに据えて活動を行った。

作品の概要

 本マップは、気仙沼における東日本大震災の記憶を記録として残すことを目的としている。私たちの取り組みは、外部の人間として何ができるのか、と思い悩むところから始まった。気仙沼に度々足を運び、聞き取り調査を進める中で「震災の教訓を忘れないで欲しい」「後世に伝えることが重要だと思う」「昔の景色を忘れ始めている」といった声に出会い、記憶の伝承という課題を認識した。そして、震災に関わる語りや写真を集め、記録として残すことを目的に、活動を開始するに至った。
 制作にあたり、気仙沼の方々に経験談を頂戴した。また、多くの写真や貴重な資料も提供していただいた。作品については、写真と語りを通して、地震と津波被害の影響を伝える伝承マップとしての側面が強調できる。さらに、震災以前の気仙沼の様子にも焦点を当てており、震災前の語り、写真を掲載している。趣ある街並みであった様子を伺い知ることができ、従来のマップには見られなかった特徴となっている。
 気仙沼の方々にマップを実際に利用していただいた際には、「いつ頃公開されるのか」「かつての様子が懐かしい」との感想を頂戴した。現地の方々の想いとニーズに少しでも応えることができたと考えている。

作品の特徴

 本マップは気仙沼の方々とのコラボレーションによって作成された。マップ名については、聞き取り調査の際、気仙沼の方々に投票をお願いし決定した。本マップ中の語りと写真については、以下のような特徴がある。

語りについて

  • 聞き取り調査を行い収集した。そして、時系列で分類し、色分けしたアイコンを用いて地図上に落とし込んだ。内容ごとに整理され、関心ある語りの発見が容易なものとなっている。
  • 「教訓」についての語りを通して、震災の教訓を学ぶことができる。
  • 方言等、地域性のある言葉遣いがそのまま反映されている。地域の特徴を感じ取ることが可能となっている。
  • 性別と大まかな年齢を追記してある。語り手の情報が伴うことで、リアリティを持って語りを捉えることができる。

写真について

  • 現地の方々に協力をお願いし、収集した。そして、時系列で分類し、マップ上でまとめた。震災前後の写真を通して、津波被害の大きさを視覚的に把握することができる。
  • 震災前の写真も多く掲載している。かつての風情ある港町としての様子を伺い知ることができる。歴史を学ぶことも可能であり、史料としての価値もある。
  • 写真以外にも、現地の方が描いた絵画やかつての気仙沼についての資料の写真も掲載している。様々な方法で震災の影響を確認する貴重な機会となる。

自由欄

付記

  • 写真については、「震災発生前」「震災発生、津波襲来時」「震災発生後」「震災発生前後の対比」の四種類のアイコンを用いて分類している。
  • 「震災発生前後の対比」アイコンにおいて、対比が鮮明な写真については、2014年12月に撮影した写真を追加した。
  • 震災発生以前の写真については、昭和後期の写真も含まれている。
  • 語りについては、「震災発生前」「震災発生、津波襲来時」「震災発生後」「教訓」の四種類のアイコンを用いて分類している。
  • 「死」に関わる語りの取り扱いについては、研究室で話し合いを行い、現地の方々のご意見を伺った結果、掲載することとなった。多くの人が亡くなったという事実を記録することの意味を重視した。
  • 語りの内容については、適宜、括弧を用いて補足してある。
  • 人の顔や車のナンバープレートといった、個人情報の特定につながり得る要素を含む写真については加工、修正が施されている。
  • 東日本大震災津波現地踏査を追加している。津波浸水域が同時に表示されることで、津波の影響を考慮しつつ、語り、写真を見ることが可能となっている。
  • 気仙沼に通い、面と向かったコミュニケーションの繰り返しを通して、徐々にご自身の経験を話してくださることもあった。研究室に閉じこもることなく現場に出ること、そして対話を継続することが大切であると感じた。
  • フォーマルな聞き取りの場面だけでなく、インフォーマルなやり取りの場面を通して、相手との信頼関係が形成されていったと考えている。何気ない時間を含め、同じ時を共有することの重要性を痛感した。

課題

  • 地域の方々との更なる連携や、現地で主体的に活動する組織との協働が望まれる。

講評

評価できる点

  • 東日本大震災前後の街並みや景色の変化に関する豊富な写真(記録)と丁寧に調査・収集した被災者の体験談(記憶)について、価値の高い災害教訓史料としてアーカイブした作品である。
  • 震災当時の死を扱う難しさを超え、被災地の記録と記憶を教訓としてわかりやすく地図上に表現しており、広く伝承できる力作である。
  • 過去の災害経験を後世に伝えるべく、非被災地の大学と被災地の地域コミュニティが協力し、空間を超えた連携が図られている。

課題、今後に期待する点

  • 写真と談話の関連性を考慮して情報を整理(関連項目アイコンのグループ化)するなど、よりわかりやすさを追求した作品に仕上げてほしい。
  • 被災地だけでなく非被災地でも役に立つ活用方法を提案したり、他の地域まで範囲を広げた活動が展開できるよう、取り組みの継続と発展を期待したい。