優秀賞
グループ紹介
グループ名 | 語り部KOBE1995 |
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市町村 | 兵庫県神戸市 |
グループ活動 | 防災組織 |
防災コンテスト参加 | 新規 |
作品紹介
グループの概要
阪神・淡路大震災の被災者たちにより 2005 年に発足したボランティア団体である。メンバー自身が直接体験した「阪神・淡路大震災の生の体験を語る」活動を主に学校現場で行っている。語り部活動は要請に応じて先方に出向いて活動を行っており、神戸市内だけでなく、岩手県、千葉県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、奈良県、和歌山県、高知県などでも実施した。活動先はのべ 80団体にのぼり、語り部の話を聞いた児童、生徒、保護者、一般市民の数は 1 万人を超える。団体では、月に1回勉強会を開きながら語り部活動を行っている。
ドラマの概要
語り部KOBE1995 の代表・田村勝太郎さんと、震災後に生まれた神戸在住の大学生が授業を通して出会い、語り部としての田村さんの悩みを聞きながら、「震災を知らない若い世代がどのように震災の記憶を語り継ぐべきか」について考え直す物語。10年以上、語り部活動を続けてきた田村さんの苦闘の話しから、震災の語り継ぎとは、必ずしも本人が直接体験したことのみについて話すことではなく、人から聞いたエピソードを他の人に語り継ぐことでもあることを知り、震災を知らない自分も災害体験の伝承の担い手になりうることに気づく。
ドラマの特徴
本作品は、語り部の「被災の経験談の内容」にのみ注目するのではなく、被災の経験談を十年以上にわたって語り続けることで「語り部自身が変化してきたという事実」に注目して制作された。阪神・淡路大震災の語り部の高齢化や、震災を知らない世代の登場など阪神・淡路大震災後21年目を迎える今だからこそ考えるべき「新しい語り継ぎの形」について、ラジオドラマで表現した。
自由欄
本作品は、語り部KOBE1995の通常活動(依頼先での語り部活動)と並行して、ラジオドラマの制作を進めた。ただし、両者の活動はそれぞれ排他的なものではなく、互いに影響を受けつつ活動が展開された。ラジオドラマは、語り部KOBE1995だけではなく、語り部の依頼をしてきた数多くの学校や団体とのやりとりも参考にしつつ制作された。
具体的には、下記のような日程とその活動場所である。ただし、ラジオドラマの作成に関しては、小規模なミィーティングを下記の日程以外にも行っており、下記の日程にあるのはラジオドラマについての集中的な検討会を行った日時である。
- 2015年7月20日:京都府・伏見桃山東地区での語り部活動
- 2015年8月8日:徳島県・津田中学校での語り部活動
- 2015年8月19日:ラジオドラマ制作の集中検討会
- 2015年10月10日:語り部 KOBE1995の定期例会
- 2015年11月9日:兵庫県・三田高校での語り部活動
- 2015年11月10日:大阪府・天王寺婦人会での語り部活動
- 2015年11月14日:三重県・津市防災大学での語り部活動
- 2015年11月19日:京都府・養徳小学校での語り部活動
- 2015年11月22日:兵庫県・神戸市須磨区千歳地区防災訓練での語り部KOBE1995の広報活動
- 2015年11月24日:札幌学院大学の神戸訪問に際した語り部活動
- 2015年12月10日:京都府・大住小学校での語り部活動
- 2015年12月10日:神戸学院大学での語り部活動
- 2015年12月18日:ラジオドラマ制作の脚本取りまとめ集中検討会
- 2015年12月19日:語り部 KOBE1995の定期例会
ラジオドラマの制作過程で議論した主な論点
ラジオドラマの制作過程で議論した主な論点は、以下の2点である
- 「震災からの時間の経過とともに、語り部の講話に求められる内容や語り部自身の語に対する思いが変化し、それにどう対応するか試行錯誤した点。」
- 「語り部の高齢化とともに、次世代へ語り部活動そのものを継承していく必要に迫られた点。」
本団体は、阪神・淡路大震災から 10 年が経過して設立した団体である。語り部KOBE1995は「震災語り部グループ 117」(震災から 4 年目に設立)から独立する形で発足した。私たちが身をもって体験したのは、震災から 10 年目は、「震災」と「防災」の区切りであり、「過去」と「未来」との区切りであったということである。震災から 10 年を機に「震災体験だけではなく、今後の防災対策について話して欲しい」「阪神・淡路大震災だけでなく、これから起こる災害についての意見を聞きたい」という要望が増え、また、聴衆からの質問にも「今後はどのような物資を備蓄すべきか」など、家庭や地域社会における防災上のノウハウを尋ねるものが多数を占めるようになってきた。自分自身が体験したありのままの出来事を自分たちの言葉で語りたいという思いと社会的な語り部の話に期待されることのギャップにどう応えていくかがこの 10 年非常に苦労した点である。
そして最近では、震災 20 年の節目を機に、どのように語り部活動を新たに展開していくか議論を迫られていた。そのため、ラジオドラマの制作はこの論点について考える好機であった。議論の中では、「自分が 10 年以上行ってきた語り部活動とはいかなる意味を持つものだったのか」「語り継ぎとはそもそもどのような意義の持つものだったのか」など、語り部メンバーの活動そのものに対する内省の言葉が数多く挙げられた。つまり、改めて活動の「原点」に立ち戻るドライブが語り部メンバーに大きく作用したのである。本作品のタイトルにもなっている「私に語る資格はあるのでしょうか」も、その議論の中から出された言葉である。震災から 20 年間に語り部メンバ ーが果たしてきた役割を振り返る中で、このような言葉が出てきたのは、メンバー全員にとって意外な結果だった。
また、震災 10 年の節目を越えて、社会の震災に対しての関心は低下し、さらに震災を知らない世代の子どもたちに話す機会が増え、自身の体験を伝えたいという強い思いは変わらないが、被災者の気持ちは被災をしていない人たちにはわからないのではないかという疑念もあった。
さらには、阪神・淡路大震災からの時間経過とともに、当時 40 代、50 代だった語り部たちも、60 代、70代になり、次世代に語り部活動をどのように継承していくかは大きな課題であり、新たなメンバー探しやどのように伝えるかを試行錯誤する必要がある。そのため、本作品の中では、震災を知らない若い世代に語り継ぎをしてもらうことについても焦点を当て、物語を展開している。
本作品は、語り部活動の依頼を受けた学校関係者や学生との議論をもとに作成している。特に、神戸学院大学や京都大学の大学生とともに集中的な議論を行った。阪神・淡路大震災を経験したことのない学生にとって、震災は遠い存在であり災害を“自分事”として捉えにくい現状が議論の中で浮き彫りになった。その中で、震災を経験したことのない人間が、震災を直接経験したことのある方から聞いた話を“代理体験”として、後世に語り継ぐことができないかという意見が提起された。当事者の高齢化問題を抱える、広島・長崎の原爆体験やポーランドのアウシュビッツ強制収容所の体験を、当事者ではない人間が代理体験として語り継いでいる試みがあり、阪神・淡路大震災でも新たしい形式で語り継ぎが出来ないか提起されたのである。大学生をはじめとする若い世代との実際の対話から生まれたアイディアを元に、本作品の物語を編集した。
以上のような議論をラジオドラマの形式にまとめることは、今回のラジオドラマ制作活動の唯一にして最大の課題であったが、語り部KOBE1995メンバーの力や、語り部活動の会場で出会った方々のアドバイスを参考にしつつ、完成までこぎつけることができた。
本作品の制作過程におけるメディア露出について
本作品の制作過程におけるメディア露出については、以下のとおりである。 下記の新聞記事で取り上げられている防災訓練は、語り部KOBE1995の主要メンバーの居住地で、かつ阪神・淡路大震災の甚大な被災地である須磨区千歳地区での防災訓練であり、その訓練にて語り部KOBE1995のメンバーは訓練の運用補助や語り部KOBE1995の語り部の被災経験談をまとめた冊子の配布などを行うと同時に、ラジオドラマの脚本内容に関する議論を訓練に参加した住民と交わした。今後はこうした場やメディアなどを有効に活用しつつ、今年作成したラジオドラマを今後ともさらに活用していく。
- 神戸新聞『災害への意識継承を。震災で甚大被害、千歳地区で訓練』
(2015年11月23日) - 読売新聞『震災被害教訓に住民ら防災訓練。須磨区千歳地区』
(2015年11月23日) - 毎日新聞『震災忘れない。須磨区千歳地区、住民防災訓練』
(2015年11月23日)
図3:語り部KOBE1995が被災経験談をまとめた冊子を配布している様子
(2015年11月22日:兵庫県・神戸市須磨区千歳地区防災訓練での
語り部KOBE1995の広報活動)
図4:語り部KOBE1995が被災経験談をまとめた冊子を配布している様子
(2015年11月22日:兵庫県・神戸市須磨区千歳地区防災訓練での
語り部KOBE1995の広報活動)
本作品の活用と今後の展開について
本作品は、語り部活動の依頼先ですでに活用され始めている。また、ラジオドラマの作成に当たり多大な助言をしてくださった、主要メンバーの地元組織である須磨区・千歳地区自主防災委員会の方々に本作品をお見せした所、防災の担い手の高齢化問題の解決策として強い共感を得ることができた。今回作成したラジオドラマの反応は、「勉強になった」「役にたった」という感想だけではなく、「新しい語り部活動の形」「次世代の語り継ぎを考える問題提起」「防災を学ぶ以上に考えを深めるコンテンツ」として建設的な感想が数多く寄せられた。
今後の活動の展開として、今回作成したラジオドラマの脚本を本格的に音声収録するとともに、今回のラジオドラマのテーマについてさらに思考を深化し、今回と同じテーマ「私に語る資格はあるのでしょうか」という同じテーマで、来年度以降もラジオドラマの第二弾・第三弾の制作しようと計画している。
語り部KOBE1995のウェブページについて
語り部KOBE1995はウェブページを運営し、語り部活動の依頼を全国各地から受け付けている。今年以外の活動履歴に関しては、下記のウェブページから参照できる。
講評
評価できる点
- 語り継ぐことの意味を明確にして、次世代に語り部活動を引き継ぐことの難しさと、重要性をうったえかけている。
- 語り部の果たしている役割についてドラマ仕立てで上手に紹介されている。
課題、今後に期待する点
- 音声化や続編の作成を期待したい。
- この活動が他の被災地の語り部にどのような影響を与えるのか期待したい。
- メディアで発信してほしい。
- 東日本大震災等、他の地域の災害の語り部活動に対して、サポートやアドバイスを期待したい。